【囲炉裏とジャズ】

今日は仕事中も家に帰るのが待ち遠しくて仕方がなかった。もうずっと前から夢見ていた囲炉裏のある部屋。今日はその囲炉裏部屋の完成の日だ。この日の為に今まで散らかっていた部屋を片づけ、新しい部屋にふさわしい照明も探して歩いた。そして大好きなCDを何枚か買いに行き、さらには今日コーヒーの焙煎器具と渋いデザインのコーヒーカップまで揃えた。それは全て僕が思い描いた新しい部屋の為に……。

なぜこうまでするのか最初は自分でも分からなかった。囲炉裏のキットを手に入れてから、今までの生活を変えたい、そう思い始めたのだ。この部屋の散らかり具合や照明、そしてテレビをただ漫然と暇つぶしだけの為に見ている自分。このままではいけないと……、しかしそのことより、新しい暮らしが始まる期待感だろうか。何かが心の中で音を立てて動き始めた。明らかに僕を夢中にさせる大きな力だった。

それからと言う物、毎日が囲炉裏部屋作りに夢中だった。部屋の隅から隅まで囲炉裏のある部屋の為にできるだけシンプルにし、照明も変え落ち着いた雰囲気にした。さらには何故かオールドジャズのようなあえて「和風」ではない音楽を聞きたいと思うようになった。そして仕上げは焙煎コーヒーの香り……。たまにはバーボンなんてのもありかな。

ついに、今日この晩、僕が夢に描いた全てが揃ったのだ。炭を熾し、部屋を暗くした。おもむろにセロニアス・モンクのジャズピアノを流し始めると身体中に熱い感動が走る。まるで自分の部屋とは思えない。さらには先ほど焙煎したばかりのコーヒーをガリガリとミルで挽くと例えようのない深い香りが部屋全体に広がって行く。こうばしい香りが古いジャズの音楽と溶け合ってますます気分が盛り上がってきた。思わずにんまりとする……。

豆は大好きなマンデリン。口の中に独特の苦みが広がってまた次の感動が五感を揺さぶる。今までこんな時間を過ごしたことがあっただろうか……。これこそが僕が思い描いていた通 りの新しい暮らしだったのだ。ゆったりとした気分で何かを想像してみたり。これからのことを考えてみたり。自分の可能性をもう一度挑戦してみようとか、そんな風に前向き思えるクリエイティブな時間。囲炉裏は僕の暮らしをすっかり変えてくれた。すごいやつだな……。

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